« 老鼠愛大米NO.50 | トップページ | 老鼠愛大米NO.52 »

2006年6月 1日 (木)

老鼠愛大米NO.51 

● 夕日

 明日からまた学校が始まる。今日は日曜日だというのに、田隈は臨時出勤をさせられた。月曜日のホームルームに必要な資料をそろえたり、担当の先生は全員間違いなく出勤できるのか問い合わせ、出席簿はちきんとそろっているかチェックする。その他いろいろな書類を点検しなければならない。朝からフルに働いて夕方まで作業が続いた。

  …さぁ、そろそろ帰ろうか…。

そう思って目を上げると、事務室の窓に張り付くように男が立っていた。

  「ウヘッ!劉君じゃないですか。びっくりしたなぁ、もう…。

   脅かさないでくださいよ。」

  「田隈先生、話があります。ちょっとこちらへ出てきてください。」

  「なんだぁ、ちょっとおっかないなぁ。まっ、劉君のお願いとあ

れば、きかないわけにはいきませんかねぇ。」

今日の田隈は妙に下手に出る。相変わらずヘラヘラしながら事務室を

出てきた。劉はロビーの真ん中に仁王立ちになって田隈を待っていた。

  「何なの?何かあったんですか。」

また、ヘラヘラ笑いかけたところへいきなり劉の拳が飛んできた。

  …ガツーン!…

不意をつかれて、田隈はヨロヨロとよろけると、ロビーの床に片膝をついたかっこうになった。鼻から血がワッと噴出した。

  「おい、おい、おい!なんでこんなことするかなぁ…。」

さっきとは別人のような恐ろしく陰気な声で田隈が言う。

  「麗麗が強制送還になったぞ。お前のせいだ。」

  「俺のせい?!」

  「そうだ。お前のせいだ。お腹の赤ん坊だって、お前の子どもだ

ろうが。なぜほったらかしにした!」

夕日がロビーの窓から差し込んで劉の足元まで伸びている。

田隈は鼻血を手でぬぐいながらゆっくりと立ち上がると、夕日を背にして劉と向き合う形になった。田隈の白い顔がどす黒く影のように見える。

  「おまえ、こんなことして…。ただではすまないぞ。今度こぞ強制送還してやるからな。」

  「おーっ、やってみろ。その時はこっちだってだまっていないぞ。

   おまえがやったこと、最初からみんなぶちまけてやるからな。」

劉はもう一度拳を強く握り締めた。

  「あれーっ。そう来るわけですかぁ。そりゃぁ困ったなぁ!」

田隈がすっとんきょうな声をあげる。

  …なんだこいつ。ころころ変わって。病気か?…。

  「ほんとは僕、李さんと結婚するつもりだったんですよぉ。」

  「うそだ。」

  「本当です。なんどもそういったんだ。でもだめだった。李さん

はちっとも僕を愛してくれなかった。」

  「だから麗麗を殴ったのか。そんなの理由にならんだろう。」

  「そうなんですよねぇ。分かってたんですけどねぇ。もう、自分ではどうしようもなくてさぁ。」

  …えっ??。

っと思った。田隈が泣いているように見える。いや田隈は確かに泣い

ているのだ。

  「悔しいんだけどね、李さん、あんたが好きだったんですよ、劉君。最初からね、ずーっと。あんたも知ってたんじゃないの、そのこと。ほったらかしにしたのは僕じゃなくてあんたでしょう。それにねぇ、李さんのお腹の子、僕

   の子じゃないって、李さん、がんばるんだなぁ。」

  「何?」

  「お腹の子ですよ。僕の子じゃないなら、あんたの子じゃないん

ですか?」

  「そんなはずないっ!」

  「そうですよねぇ。僕だって信じませんよ。でも李さんは絶対に

僕の子じゃないって。ま、真相は藪の中。藪の中を知っている

のは…。ねぇ、劉君。あの事、ほらホテルであったでしょう。

あの日のこと、僕たち三人だけの秘密なわけですからねぇ。」

 

  ビュウンビュウンビューン。夕日に向かって自転車を走らせる。…待て、待ってくれ。今日を終わらせないでくれ。もう一度もどってくれ。麗麗のお腹の子が俺の子だなんて!

劉は夕日に向かって自転車を飛ばす。もう一度あそこで止まってほし

い。空港のロビーで麗麗に会ったあの瞬間に。

  …そしたら麗麗に訊けるのに。「麗麗、そのお腹の子は、俺の子かって。お前は何も言わすに俺の子を連れて国へ帰って行ったのか。

麗麗の顔が目の前に現れる。ビュンビュンビュン、夕日に向かって走

る。「この子は劉、この子はあ・な・たの子よ」。麗麗の唇が動く。

「あっ!」

自転車の前を何か黒い物が横切った。劉はあわててハンドルを右に切

った。猫だった。

  その時、

  ドーンッ…。

後ろから来た軽トラックが劉を自転車ごと跳ね飛ばした。劉の体は棒

を宙に放り上げたように高く舞い上がると、そのまま頭からアスファ

ルトの道路へ落ちていった。

  「カランコロンコロン」

劉のナップサックから土鈴が転がりでた。ジワーッと熱い液体が劉の

耳から流れ出た。劉がゆっくり土鈴に手を伸ばす。

  …先生、先生…。もう、何も見えない。

空から黒い幕が下りてきたように辺りは真っ暗になった。

クリックにご協力ください!人気ブログランキング

|

« 老鼠愛大米NO.50 | トップページ | 老鼠愛大米NO.52 »

コメント

退屈な毎日から抜け出せるチャンスがここに!いろんな異性がいてるから確実に出会えること間違いない!中には芸能人も登録してるって噂だよ

投稿: デコログ | 2011年1月23日 (日) 08時00分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 老鼠愛大米NO.51 :

« 老鼠愛大米NO.50 | トップページ | 老鼠愛大米NO.52 »