老鼠愛大米NO58
「あら、王華さん、久しぶりね。元気?」
「元気?うーん、まぁまぁですねぇ。先生は?」
「元気よ。」
直美が少しうつむき加減に応える。なんだか今までのさわやかな気分がいっぺんにかき消されたような、憂鬱な気分になった。
「先生、李麗麗が強制送還されたの、知ってますか?」
「えっ!李さんが!そんなぁ、知らなかったけど。」
「それに、麗麗は妊娠してたんですよぉ。」
まるで、人の不幸を楽しんででもいるかのように、王華が目を細める。
「妊娠?だ、だれの子?」
「さぁ、わからないんですよねぇ、これが。たぶん事務の田隈
さんの子じゃないのかなぁってみんなが…。」
「そう…。」
…田隈さんの子…。
また、息が詰まりそうな感覚に襲われて、直美は少しよろけた。
…もう、いいよね、劉君。わたし、疲れた。こんなことから開放
されたい。
直美はバックの中に手を突っ込んで、劉の土鈴をそっとさわった。
「先生、劉が死んでからずーっと学校休んでましたね。先生と劉
って何か関係があったんですか?」
王華がねとっとした声で訊いた。長く伸ばした髪の毛を手でいじっている。
「関係って?」
「だから、劉と先生って体の関係とかあったのかなーって。
みんな噂してるから…。」
直美はそのまま地面に倒れそうになるのを、テントの柱に手をまわしてようやくこらえた。
「やめろ!」
いつの間にか趙が後ろに立っていた。その横にさっきの白組のアンカーもいる。スラっとした体型は劉とよく似ていたが、顔立ちは少し影を帯びたような劉とは反対に、今日の青空に溶け込むようなスカッとしたすがすがしさがあった。
「先生、みんな待ってます。行きましょう。」
趙が直美を促す。直美はそれを手で制して、王華の目をまっすぐに見た。
「王さん、わたしね、この頃思うのよ。人は三つのタイプにわか
れるんじゃないのかなぁ。人を愛する人、人に愛される人、そ
してそのどちらもできない人。人を愛すことも愛されることも
ない。そんな人さびしいと思わない?あなたがその三番目のタ
イプじゃないといいけど…。」
「じゃぁ、先生は何番目の人なんですか?」
王華がくいさがる。
「さぁ、何番目なのかしら?わからないの。でも一つ選びなさい
って言われたら1番目を選ぶわ。人を愛する人になりたい。
たとえわたしがその人に愛されなくてもね。」
直美は心の中でもう一度つぶやく。
…わたしは人を愛する人になりたい。
「行きましょうか。」
直美はくるりと後ろをむいて、趙の背中に手を回した。趙は直美の肩を抱く。まるで直美を守る兵士のようだ。
「あれーっ。趙さん、何やってるんですかぁー。坂本先生を一人
占めはだめですよぉー。」
佐伯のはじけるような笑い声が聞こえる。
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