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2006年6月15日 (木)

老鼠愛大米NO.56

           スポーツ大会

 “パンパーン…”

空砲が聞こえる。九州日本語学院のスポーツ大会開始の合図だ。直美はようやく退院し、「是非見に来てください」という趙の誘いを断りきれずに、会場の入り口までやってきた。

 朝から何度も入り口の方を気にしていた趙が目敏く直美をみつけて

「坂本先生-っ!」と手招きする。周りにいた2組の学生たちがはじかれたように立ち上がって、バラバラと直美の方に駆けてきた。

 久しぶりの顔。どの顔も懐かしい。

  スポーツ大会は白組、赤組、青組、緑組、黄組の5つのグループに分かれて争われる。10月からこの学校に入学した新入生も加わっていて、直美の知らない顔がずいぶん増えている。

出し物は例年と同じような種目で、百足競争、綱引き、玉入れ、借り物競争、二人三脚。

 二人三脚は事務長の八田と、斉藤主任がペアになった。ところが二人の気が合わずに何度も転び、最後は結んだ紐がほどけてしまった。しかたなく、八田が斉藤を抱き上げて必死でゴールに駆け込んだ。

二人の様子に、学生たちは涙が出るほど笑い転げる。

斉藤は八田に抱き上げられたことに腹を立て、ゴールしたとたん、本気で八田のほっぺたを「バシーン」っと平手打ちした。

それを見てまた会場全体がドッと笑いの渦に包まれた。

スポーツ大会は楽しい。こんなに笑ったのは久しぶりだ。どの顔もうれしさに輝いて見える。

 時間はアッと言う間に過ぎて、最後の種目、各組対抗のリレーが始まった。

 男女6人が組になって走る。女子が二人で、半周ずつ、残りの男子4人がそれぞれ1周ずつ走って1位を争う。

 皆と久しぶりに競技を楽しんでいた直美もリレーとなるとさすがに胸が痛んだ。去年の劉を思い出す。劉は走るのがずば抜けて速かった。細く長い足が鋼のような強さで地面を蹴って走る。劉が走り始めるとレースよりも、劉の走りそのものに観衆は目を奪われたものだ。

  …もう、帰ろうか…。

 直美はトイレに行くふりをして、そっと席を立った。皆の輪から離れて数歩、歩いたところで

「ウォーッ!」という歓声が背中で聞こえた。後ろを振り返ると、リレーの選手団が入場してくるところだった。

「アッ。」

直美にもみんなの歓声の意味が分かった。趙たち白組の選手はみんな

頭に墨で「劉」と書かれた白い鉢巻をしていた。

  走る、走る、走る…。

 選手たちは選ばれただけあって、どの人も早い。白組は女子二人が走ったところで5組中、第3位につけた。3番目の男子は何とか3位をキープしたものの、2位との差は縮まらず、むしろ4位の緑組に追い上げられそうな勢いだ。ところが4番手に走った高輝ががんばった。

阿蘇の草千里で馬に乗ったときのように、

  「負けるかーっ、負けるかーっ!」

と大声で叫びながら二位に迫る。二位の赤組の選手は高輝の大声に気おされたのか何度も振り返って、しまいには次の選手にバトンを渡すときに落としてしまった。あわてて拾っている間に、高輝が趙にバトンを渡し、赤組を抜き去った。

 趙も早い。またもや「負けるかーっ。」と叫びながら、暴れ馬のような格好で1位の青組みを追いかける。しかし青組の鄭はもっと早い。差が縮まるどころか、ヂリヂリと開いていく。

 鄭が最後のコーナーを回ったとき、それぞれの組のアンカーが一列に並んだ。

 立ち止まって見ていた直美はアッと息を呑んだ。

白組のアンカーはまるで劉そのものではないか。スラッとした長身の体躯だけではなく、遠くからみると顔まで似ている。

青組のアンカーにバトンが渡ると、数メートル遅れて趙が白組のアンカーにバトンを渡した。アンカーは長い足を更に長く伸ばして、青組を追いかける。

 

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