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2006年6月11日 (日)

老鼠愛大米NO.55

病室のドアから色とりどりのコスモスがゆらゆらと顔を出した。

  「先生!今日はげ・ん・き?」

趙がドアの脇に立って、腕一杯のコスモスを抱えている。

  …「コスモス(秋桜)」やっぱり菊だけど。でもこれならいいわ

ね…。

斉藤主任の誕生日、あの時の騒動を懐かしく思い出しながら、直美は小さく微笑んだ。

 趙は劉の葬式の後も一向に元気にならない直美を気遣って、このところ毎日のように病室を訪れる。もう、劉の話を一切しない。

…したら先生の悲しみを大きくするだけだから…。

両親が劉の遺骨を抱いて学校を訪れたこと。佐伯先生が劉の遺骨ごと母親に抱きついて、斉藤先生が無理やり引き剥がすまで、いつまでも泣きじゃくっていたこと。事務の田隈先生がなぜか「すみません、すみません」と土下座して謝り続けたこと。

  …そんなこと、坂本先生にはもう、どうでもいいことなんだ、劉

がいなくなった今は…。

趙はそう思っている。  

 

 秋の日は落ちるのが早い。趙はしばらく直美のベッドの脇に座って、学校の教室で起こったおかしな話などあまり上手にならない日本語で、

とつとつと話してから、立ち上がった。

  「先生、僕そろそろかえります。」

直美が布団からちょっと手を出して、趙にさよならとでも言うように手を振った。趙はその手を捕まえて、

  「先生、これ先生にあげます。」

いきなりポケットから土鈴を取り出して、直美の手の平にのせた。

  「この土鈴。劉のなんです。劉が事故にあったとき、この鈴を両

手で包んで胸のところで抱いていました。先生、この鈴ね、振

ると坂本先生の声がするんだ。きっとこの声といっしょに、天

に上って行ったんだですね、あいつ。」

 …だから、先生の声がでなくなったんだろうか…。

趙はまじめに心配している。

「でも、大丈夫。僕が先生の声を取り返してきたから…。」

 趙はちょっとおどけた声でそういうと、後ろ向きに歩きながら病室を出て行った。

   「先生、早くよくなって。もうすぐ学校のスポーツ大会だよ。

みんなで待ってますからーぁ。」

ドアを閉めてからも、趙の声が聞こえる。

 直美は土鈴を手のひらにのせたままじっとベッドに座ったままだった。土鈴をそっと振ってみる。

  「カラン、コロン…」

  …劉君…。

直美は声をあげて泣いた。劉が死んで初めてのことだった。

 

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