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2006年5月30日 (火)

老鼠愛大米NO.50

 故郷の祖父は病院に寝たきりだったが、帰国した劉に勇気づけられ

たのか、少し元気をとりもどした。そう長くはないにしても、少なく

とも劉がいる間は病状が安定していた。

 「いよいよ日本へ旅立つ」という日、劉が病院に祖父を見舞いに行

くと、祖父はめずらしく背中に枕をさし込んでベッドの上に体を起こ

していた。

 「翔、私は元気だよ。…翔が元気でがんばっている限り私は元気に

しているから、安心しなさい。…でももしお前がまじめに勉強し

なかったり、…弱気になったりしたら、、…私もすぐに悪くなって

しまうからね。……しっかり努力しなさい。…それが私の一番の

薬だからね。」

祖父はゆっくりとそれだけ言うと疲れたのか劉の母親に目で合図して、ベッドに横になった。そしてもう一度劉を自分の顔の方へ呼び寄せた。そして小さな小さな声で、劉の耳にささやいた。

  「私が死んでも、葬式に帰ってきてはいかん。日本で勉強をつづ

けなさい。私が死んだら、いつだって好きなときにお前に会い

にいけるから…。」

  劉は祖父に抱きついた。そのまま大声で泣きたかった。しかし泣

かなかった。泣いたら祖父がもっと悲しむ。

 ぱっと顔をあげてきっぱりと言う。

  爷爷,再见

 今生の別れだった。

 福岡空港の一階は、たった今、日本に到着した人たちと、今から外国へ出発しようとする人たちで混雑している。

 劉は空港の中を走るシャトルバスに乗ろうと、バス停の方へ歩いていった。向こうから知った顔が歩いてきた。麗麗だった。手荷物だけを肩からかけて、脇を見知らぬ男につかまれ、引っ張られるように歩いてくる。

  「麗麗。」

劉は二人の前に立ちふさがった。

  「おい、そこをどけっ。」

男が劉を乱暴に押しのけようとする。

  「何ですか。」

劉は男の手を押さえた。

  「お前は誰だ。この女の知り合いか?手を出すな。手を出し

たら、お前もいっしょに強制送還させるぞ。」

男が劉に顔を近づけて低い声で言う。

  「すみません。その人、私の知らない人です。構わないで

   ください。」

麗麗が泣きそうな顔でそういって一人でずんずん先へ行く。男が

あわてて麗麗の腕をつかみなおした。

  「おい、麗麗。どうなってるんだ。」

劉がまた二人を追いかけようとしたとき、麗麗が振り返って口を

動かした。

  「再見!」

あの時と同じだった。あのホテルのエレベーターであったときの麗麗と今の麗麗は同じ顔をしている。ただ一つだけ違うこと、それはもう

劉に助けを求めていなかった。「さようなら。劉!もうあなたに会うことはないと思うの」、泣いているのか、笑っているのかわからない麗麗の顔がどんどん小さくなっていった。

  …麗麗…。

 ぼんやりと空港のロビーに立ちつくす劉に、注意を払うものなどだれもいない。

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