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2006年4月 1日 (土)

老鼠愛大米 NO.8

「あなた、ちょっと用があるんです。店に戻ってもらえますか。」

言葉は丁寧だが、ひどく冷たく強い言い方だった。

…もう取り返しがつかない。見つかったんだ。

麗麗は黙ったまま、買い物袋をぎゅっと握り締めて、男に腕をとられたまま、スーパーへと引き返した。男は店の裏口からスーパーの事務所へ麗麗を連れていった。

「ここに座って。」

男の名札には「店長鈴木」と書いてある。店の事務所にはいくつかテレビカメラがあって、店のあちこちがそれで見えるようになっていた。

「あのね、ポケットに口紅いれたでしょ。ほら、あんたが立ってたとこね、テレビに映っているのよ。お客さんが買い物してるところはみんなこうしてテレビで見えるわけ。あんたがポケットに口紅入れたの、ここからちゃーんと見えてたんだ。ねっ。お金払ってないよね。ポケットの分!」麗麗はポケットの中の口紅を手で握り締めた。

…このまま溶けてなくなってしまったらいいのに。いっそ私もいっしょに溶けてなくなりたい。

「出してみて!さぁ!」

言われて、仕方なくポケットから口紅の袋を取り出す。

「ほーら、やっぱりだろう!ほんとに困るんだよねこんなことされちゃぁ。」

「あの、あのーぉ、お金払うの忘れました。」

麗麗はとっさの思いつきで言った。

「今から払います。」

「あれー?おたく外国人?中国?まただよ。最近多いのよねぇ。外人が万引きするの。そりぁ、中国人だけじゃないけどねぇ。ほんと多いんだよねぇ。あんたみたいなのが…。」

「あの、お金払います。忘れただけですから。」

「そうは、いかんでしょう!あんた盗ったんだからね。見つからなかったらそのまま帰ってたんじゃないの?しようがないなぁ。名前はなんての?日本語学校か何かの?学生さん?」

麗麗はまた口ごもった。こんなことが学校に知れたら、即、帰国させられるかもしれない、どうしよう。母の泣き顔が目の前をちらちらする。

…母さん!

「あんた、早く名前を言わないと、警察呼ぶからね。」

…けっ、け・い・さ・つ!!

麗麗は震え上がった。

…こんなことで、警察を呼ぶのか!

「学生証持ってる!なんだ、九州日本語学院じゃないか。とにかく学校と連絡を取るからね。いいね。」

李麗麗はずっと下を向いたままじっとしていた。涙がひざの上でそろえた手にぼたぼたと落ちた。

…なんとかしなくっちゃ。なんとか言わなくては。

そうあせっても、今の麗麗にはこの場を切り抜けるだけの知恵も語学力もなかった。

やがて学校の事務所から田隈が飛んで来た。田隈は事務所に入るなり大声で李麗麗をどなった。

「おまえなんてことするんだ。こんなことする人間とは思わなかったよ。早く店長に謝れ!」

そういうながら麗麗の頭を無理やり押さえつけた。麗麗は更に惨めな気持ちになった、

…これなら警察でもどこでも連れて行ってくれた方がよかった…。

心の中でつぶやいた。

田隈は店長と話し始めた。店長に話しかける田隈はさっきの態度とは全然違って、やけにへらへらしている。

「店長、すみませんねぇ。日ごろからこいつらには相当教育しているつもりでも、ほら、あれでしょう、なかなか文化が違うとさ、通じないんだよね、これが…。ま、この人も今回初めてのことなんで、なんとか許してやって欲しいんですよ。」

「あんたねぇ。そんな甘いことばっかり言うから、この人たちつけ上がるんじゃないの。」

「いや、いや。あんまり大騒ぎになると、こちらのお店にも迷惑がかかるでしょう。何しろこのスーパーも最近結構外人さんが多いんじゃないですか。あんまり警察沙汰なんかにすると外人さん来なくなったりしません?」

店長は形勢が悪くなったのか更に不機嫌になった。

「ま、店長さん、お願いしますよ。あのーっ、この口紅うちで買い取りますから、もちろんレジで普通に。それでどうでしょう。ほら、お前もしっかり謝って!」

また麗麗の頭を小突く。

「じゃぁ、今回だけはこちらの事務長さんの顔を立てて。」

いやぁ、僕は事務長じゃないんですけどね。ま、とにかく店長さんのご好意に 

 甘えて、じゃ、これで…。」

田隈はへらへらしながら、また麗麗の頭を小突くと事務所を出た。

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コメント

Kitty-kさん、はじめまして。
NO.8まで読ませていただきました。
何だかドキドキしています(*^_^*)。
文のリズムが心地よく、一気に読みました。

鯉の弁償金に20万。この金額をみて、あることを思い出しました。
ストーリーには全く関係ないのですが、知り合いが、どこかの球団の優勝(阪神だったか?)で、カーネルおじさんの人形を胴上げして壊したと。その代金が確か20万だった・・・
ちょぴり懐かしい気持ちまで呼びおこしてもらいました・・・

続きを楽しみにしています。頑張ってくださいね。


投稿: 此の糸 | 2006年4月 2日 (日) 01時21分

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