« 老鼠愛大米 NO.4 | トップページ | 老鼠愛大米 NO.6 »

2006年3月29日 (水)

老鼠愛大米 NO.5

日本語学校の月曜日はいつもに増して忙しい。1時間目はホームルーム、聴解の授業、前の週に行ったテストの解説、今週のテスト、そ

の後の授業。午後からは各学年に分かれての担任会。それから、主任の斉藤から今週の連絡事項が言い渡され、各クラスから寄せられた、さまざまな問題、進路指導などについて話し合いがなされる。

 午後三時を回ったころやっと一息つく。直美が顔が隠れるくらいの教材や資料を抱えて、職員室に入ってくると、佐伯の横の席の机にその荷物をどさっと置いて、座った。佐伯はいつものように、めがねを鼻まで下げて、何やら事務室の方を伺っている。

 「どうしたの?」

 「直美先生、趙さんが事務室で叱られていますよ。また何かやったのかなぁ。昨日集まった連中も一緒にいるみたいだし…。昨日の事と何か関係があるんですかねぇ。」

直美も事務室の方に目をやる。趙と同室の秦、張玉、馬が揃って下を

向いて八田事務長に怒鳴られている。八田の横には今時珍しい黒い革

ジャンのおじさんが不機嫌そうな顔で四人をにらみつけている。

「斉藤主任、趙さん、また何かしたんですか。」

と直美が聞く。

趙は性格は悪くないのだが、日本に来てからすぐに万引きで捕まっ

たり、アルバイトを無断で欠勤したり、その度に八田が相手先まで出向いて謝って来る。だから何か事件、というとみんな頭から「また、あの趙さんが何したの?」と疑いの目で見てしまう。

 斉藤が、難しい顔をして小声で聞く。

 「昨日の趙さんとこでやった春節のパーティー、坂本さんも行った

の?」

 「はい、行きました。」

 「その時、鯉料理が出たでしょう。」

 「ええ。あれ、錦鯉でしたよ。どこで買ってきたのかと思いました。」

 「で、食べたの?」

「いいえ。でも佐伯さんが食べましたけど。」

 「あれねぇ、趙さんたちの家の隣りに公民館があったでしょう。あの公民館の池の鯉なんだって!」

 「はぁーっ!」

直美と佐伯が同時に声を上げた。佐伯の顔がみるみる青くなっていく。

 「坂本先生、私吐きそうです!」

 「何言ってんの。あれから、ずいぶん時間が経ってるでしょう!

  大丈夫よ。」

 「いえ、もう…。」

佐伯はあわててトイレの方へ走っていった。そしてその日はそのまま

もどって来なかった。後で聞いた話では、学校の近くの病院で検査を

してもらったらしい。医者になんていったのか、誰も聞いていない。

 「坂本さん、とにかく『春節の会に趙さんの家に行きました』なんて向こうが聞いてこない限り、自分から言うもんじゃありませんよ。わかった!」

斉藤はピシャリというと、何事もなかったかのように、下を向いて、

何か書類を書き始めた。

 結局、趙たちは始末書を書かされ、1週間毎日自習室で勉強させら

れる罰を受けた。学校は鯉代として公民館に20万円の罰金を払った。

|

« 老鼠愛大米 NO.4 | トップページ | 老鼠愛大米 NO.6 »

コメント

横浜在住の錦鯉愛好家です。
http://yaplog.jp/mamchiro/
で貴ブログのこの記事を紹介させていただきました。
ご都合が悪ければお手数ですがコメントして下さい。

投稿: マムチロ | 2006年3月31日 (金) 07時43分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 老鼠愛大米 NO.5:

« 老鼠愛大米 NO.4 | トップページ | 老鼠愛大米 NO.6 »